複素数平面上の線積分
※この分量の教材で,複素関数を初めから解説することは無理なので,そこまでは戻らない.一応,複素数や複素関数の初歩は分かるものとして進める.
あまり厳密な証明はせずに,簡単な例を見ながら,無理なく「真似できるようになる」ことを目指す. ![]() 右図の複素数平面上の各点で関数が
これは高校で習う実軸上の積分なので,問題なくできる
(3) ![]()
複素数
(重要)この問題のように,関数 ![]()
途中経路をCで表すと,この計算は
となることから分かるように「原始関数に対する始点と終点の値だけで決まり」「途中経路に依らない」 |
(2)![]()
経路上の複素数
※1 前項の(重要)で書いたことは,ここでも言える.すなわち,このような複雑な変数変換によって実数の積分に直さなくても,複素関数としての不定積分が計算できるときは,その差で直接計算すればよい.(そこが複素関数の良い所!)※2 ここまでに求めた値を使えば,次項で述べるコーシーの定理(正則な領域における周回積分は0になること)を直接確かめることができる. 以上のことを,周回積分の記号を使って表すと となるが,このことは周回上の適当な点 (例えば原点)を始点かつ終点として積分を行えば となることからも分かる. |
(2’)
ここまでの解説から分かるように,複素数平面上で経路に沿って線積分を行う場合,その結果は途中御経路に依存せず「不定積分の関数,始点と終点」だけで決まると予想できるが,円や直線に沿った計算練習は重要になるので十分な練習が必要.(例えば,不定積分の関数形が求められないときに,う回路を作って周回積分を先に計算するというような作業で重要となる)
![]()
経路上の複素数
もしくは ここで だから |
(2”)![]() |
留数定理
閉曲線上の周回積分は,つねに反時計回りに積分するものと決めておく.
(解説)(1) [コーシーの定理] 閉曲線Cに囲まれる変域において,複素関数 (2) [留数定理] 閉曲線Cに囲まれる変域において,複素関数 は閉曲線C内にある留数(−1次の係数)の和に2πiを掛けたものに等しい (1) となる. (2) のように表されるものとする. (整式の部分を このとき, ア)整式の部分からは イ)k=−1の部分からは ![]() |
ウ)k=−2, −3, ...の部分からは![]() これは,複素数の対数関数が に等しく,1周すると偏角 ![]() 右図のように2つの極の間に切り目 このことは,3個以上の曲がある場合でも同様である. 【例】 ![]() であるときに,右図のように |
留数の求め方
(1) 関数がローラン級数に展開された形で書かれていれば,留数すなわち (2) 関数が必ずしもローラン級数に展開されていない一般の形,例えば 1) となるとき, 2) であるから,1回微分してから 3) をk-1回微分してから
【例2】
(解答)次の関数の (1) (1) (2) (3) |
【例3】
(解答)について,円 積分路の内部に極 (別解) 部分分数に分解すると だから, よって ![]() について,右図のような,十分大きな半径Rの円の上半分とx軸を積分路とする周回積分を求めてください. だから,2つの極 ※R>1であればRの大きさによって結果は変わらない. |
留数を利用した実積分の計算
原始関数(不定積分)が求められる場合には,次の例(2.1)のように定積分は原始関数の差で計算できます.これに対して,原始関数(不定積分)が容易には求められない場合に,複素平面上の周回積分を利用して,実積分を求められるものがあります. ![]() という実軸上の積分を求めたいが,その計算が容易でないとき,右図のような複素数平面上での周回積分と経路C2の積分が計算できれば,R→∞の極限により実軸上の積分C1が求まることになります. ![]() 右図のような複素数平面上での周回積分と経路C2, C4の積分が計算できれば,R→∞, r→0の極限により実軸上の積分C3とC1の和が求まることになります. 一般に,上記の(1)(2)においてR→∞のときに,半円上の経路での積分が0になることが多い.
(2.1)
(参考)となることを証明して下さい. この積分は,実軸上の広義積分としても求めることができる. |
(解答)![]() そのときに, に注意すると,上半円には特異点が1つだけ( において ここで (
したがって(
|
フレネル積分
光の回折の理論に現れる積分
はフレネル積分(フレネルはフランスの物理学者)と呼ばれ,初等的に表せない.積分区間が負の無限から正の無限までの(2.2)の形の定積分などは,複素積分を利用して求められる.
(2.2)
(2.3) となることを証明して下さい. ![]() (2.2)← まず,C1については,このページ (1.3) 1)ガウスの積分公式により,R→∞のとき 次に,C2について なお,
も併用する. 被積分関数の絶対値を調べると ここで,どんな ![]() 右図のように, だから (*3)を(*2)(*1)に戻すと (
|
以上により, C3は次の計算になる (*4)により により cosθは偶関数だから 左辺は だから,右辺は 結局 (2.3)← において,次の置換積分を行う. ゆえに |
(2.4)
となることを証明して下さい. ![]() であるから を求めて実部,虚部に分けることを考える.(実際には実部は出ない) 右図のような4個の積分路に分けると,この閉曲線内に極はないから が,当面求めたいものである.R→∞,r→0の極限で考える. C2上では, であるが,指数関数の指数関数では考えにくいので,次の表記も併用する. だから ここで だから ![]() 同様にして は上記と同じだから 結局,R→∞のとき, |
C4上では,C2と同様にして,上半円の半径をrとするが,極限としてはr→0を考える. ゆえに C3上では C1+C3 全体をまとめると 結局 |
上記の証明で,経路が半円となるC2,C4については,次の定理を使ってもっと簡単に計算できることが多い.
【ジョルダンの補題】
(証明)![]() ならば が成り立つ.(ただし, 半径Rの上半円上にある複素数を極座標を用いて表すと, 次の表記も併用する. ここで, 仮定により, においてM→0となる. そこで すなわち,この積分が上に有界であることを示せば,CR上の積分が0になると言える. この第2項は,置換積分により第1項と等しいことを示せる. したがって |
![]() は上に有界 (C)→(B)→(A)と見ていくと,(A)は有界な定積分に対して0に収束する値Mが掛けられているから,0となる. (参考)ジョルダンの補題を用いた場合の(2.4)の証明 ![]() を右図のような4個の積分路に分けると において だから,ジョルダンの補題により, 次に, となる極 C3上では C1+C3 全体では 結局 |
【例5】
(解答)ジョルダンの補題を利用して,次の定積分を計算してください. ![]() を求めて,実部を取り出す. だから,極は 複素数平面上の上半平面における極 右図の周回積分は ここで だから,ジョルダンの補題により したがって |
【例6】
(解答)ジョルダンの補題を利用して,次の定積分を計算してください. ![]() を求めて,実部虚部を取り出す. だから,極は 複素数平面上の上半平面における極 右図の周回積分は ここで だから,ジョルダンの補題により したがって |
(類似の公式)…やさしいもの
(2.4.1) 幾何光学に登場する元々のフレネル積分の式
(証明)(2.4.2) (2.4.1)← (2.2)において 次のように置換積分を行う. 両辺を |
(2.4.2)← 次のように置換積分を行う. これは(2.4)により (類似の公式):参考程度…証明は大変難しい
(2.4.3)
(2.4.4) (2.4.5) (2.4.6) |
【定積分と不等式】 (1) 実変数の関数の定積分について,次の不等式が成り立つ. したがって |
(2) 複素関数の定積分についても,次の不等式が成り立つ. ただし, |
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