■Excelを使った定積分の計算
≪要点≫
【例1】○ 不定積分を求める計算は,関数→関数となるのに対して,積分区間の下端と上端が定数であるような定積分の計算は,関数→定数となるのでExcelなどのコンピュータソフトを使って簡単に求めることができます. ○ 区分求積法という定積分の定義においては小区間の幅を0に近づける極限を考えるのに対して,ここで求める方法では「そこそこ小さな有限の幅」を使って近似値を求めます. ○ 高校数学では分数や根号を用いた厳密な値が好まれますが,ここで求める方法は小数で表した近似値になります.
日常生活では有効数字3桁,自然科学計算でも有効数字6桁もあれば十分です.
○ この方法は数値積分法と呼ばれ,
1∫0 e−x2dxや1∫0![]() のような筆算で求められない定積分を求めるのに使うことができます.極端に言えば(有限確定値となるものなら)どんな定積分でも求めることができます. 右の表1は,定積分2∫1 (−x2+3x−2)dxの値を求める手順を示したものです. (1) A列にxの値を書き込みます.
積分区間の下端1を書き込み,「フィル」→「連続データの作成」を使って0.05ずつ増えるようにします.
ここでは「そこそこ小さな有限の幅」として0.05としました.これは1から2までを20等分するということです.この値は,C列に書きこむ「長方形の横幅」に使います.
(2) 右図1のようにそれぞれの長方形の縦の長さと横の長さを掛けて面積を求め,全体の合計を求めることを考えます.精度の高い値が必要なときは分割を細かくすればできます・・・Excelワークシートでは10000等分でもできますが,実際上よく使う小数第3位程度の数値なら100等分くらいで十分求められます. そのために,まずB列に縦の長さy=f(x)=−x2+3x−2の値を計算する式を入れます.
B2のセルに =-(A2^2-3*A2+2) と書き込み,この式をコピーしてB列の残りのセルに貼り付けます.
(3) 次に各長方形の横の長さをC列に書きこみます.
A列でxの値を0.05ずつ増やしているので,各長方形の横の長さはすべて0.05になります.
(4) B列の値とC列の値を掛けると各長方形の面積が求まります.
D2のセルに =B2*C2 と書き込み,この式をコピーしてD列の残りのセルにも貼り付けます.
(5) D列の値の和を求めます.
D23に =SUM(D2:D21) と書き込むと出来上がり.
D22のセルは足さないことに注意
※上で示した方法では,各長方形の左上端が曲線と接した形で長方形を作るので,表1の桃色の背景色で示した部分が,図1の桃色で示した長方形の面積の計算になっている.
図1から分かるように,このように近似すると曲線が増加する区間(図では0≦x≦1.50の区間)において長方形の面積は,真の面積よりも少しずつ少ない.逆に曲線が減少する区間(図では1.50≦x≦2.00の区間)において長方形の面積は,真の面積よりも少しずつ多い. 区分求積法では,分割を限りなく細かくする極限を考えるのでこれらの誤差が0になって真の面積に収束するが,上記のような数値積分では求める数値の精度に応じて分割の仕方を考えるとよく,ここで示したような増加の区間も減少の区間もあるような関数では相殺されて20等分程度で十分よい近似値が得られる. ※Excelで上記のような表を組み立てていくと,右図2のようなグラフも簡単に描ける.(表1においてA2:B21の範囲を選択して,グラフ→散布図(平滑線付き)を選ぶとよい・・・x座標も範囲内に含めるときは折れ線グラフではない.) |
表1
図1 ![]() ![]() ※数値積分については誤算の範囲を求める公式がありますがここでは扱いません. 下図3のように少し大きめに取った長方形(増加の区間では右端の値を縦の長さにする,減少の区間では左端の値を縦の長さにする)と少し小さめに取った長方形(左記の逆)とが有効数字n桁まで一致すれば,その有効数字までは正確な値と考えることができ,これらがn→∞のときに完全に一致すればその極限値が面積の定義だと考えることができます. |
【例2】 右の表2は,定積分π∫0sin x dxの値を100分割で求める手順を示したものです.
この積分では,積分区間が0からπまでなので,10等分とか100等分したときの各小区間の区切りとなる値をオートフィルを使って埋めることができません.そこでワークシート関数 =PI()を使ってπ=3.141592...の値を高精度で求めておき,セルA3の値を =A2+C2によって求め,この式をA4からA102までコピー・貼り付けするようにしたのが工夫点です.
(1) A2に積分区間の下端0を書き込みます.(2) 次に各長方形の横の長さをC列に書きこみます.
高精度でπの値を返す関数 =PI() を使って,その100等分 =PI()/100をC2に書きこみます.
(3) A3の値を=A2+C2によって求めます.次にこの式をA4からA102までにコピー・貼り付けします.この値をC3からC102までにコピー・貼り付けします. (4) D列にB列の値とC列の値の積を求めます.
D2に =B2*C2と書き込み,この式をコピーしてD3からD102までに貼り付けます.
(5) D列の和を求めます.
D104のセルに =SUM(D2:D101) と書き込むと出来上がり.
101番目のセル(積分区間の上端)D102のセルは足さないことに注意 |
表2
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【参考】台形公式 曲線が増加の区間では,右図3のように左端のxの値に対する縦の長さf(x)に横幅⊿xを掛けた長方形を使うと,水色で示したように各々の真の図形に対して少しずつ小さな長方形を足していくことになり,右端のxの値に対する縦の長さf(x+⊿x)に横幅⊿xを掛けた長方形を使うと,少しずつ大きな長方形を足していくことになります. これらに対して,図3の桃色で示したような台形を足していくと同じ分割の仕方でも,より真の面積に近い値を足していくことになります.この方法で面積を求める方法を「台形公式」と言います. 台形の面積は(上底+下底)×高さ÷2で求められますが,この上底を左端の縦の長さに当てはめ,下底を右端の縦の長さに,高さを横幅に当てはめると,例えばD2の欄では ![]() ![]() |
図3
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問題1次の定積分は筆算によってでも計算することができますが,ここではExcelを使って積分区間の幅を100等分した数値積分として計算し,小数第3位を四捨五入して小数第2位まで求めてください. |
この定積分はx=tan tとおくことにより筆算でも計算することができ,
![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() となりますが,Excelを使って次のように表を組み立てると,D103のセルに1.570762993の値が得られ,小数第3位を四捨五入すると1.57となります.
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この定積分は部分積分により筆算でも計算することができ,
![]()
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この定積分は部分積分により筆算でも計算することができ,
In=π−2∫0sinnx dxとおくと
となりますが,Excelを使って次のように表を組み立てると,D103のセルに0.5912...の値が得られ,小数第3位を四捨五入すると0.53となります.漸化式In= ![]() I5= ![]() ![]() ![]() ![]()
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問題2次の定積分は筆算では計算できませんが,ここではExcelを使って積分区間の幅を100等分した数値積分として,台形公式を使って計算し,小数第3位を四捨五入して小数第2位まで求めてください. |
7∫−7 e−x2dx≒ ![]() となることが知られていますが,ここではExcelを使って次のように表を組み立てていくと計算できます.
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1.786322983の小数第3位を四捨五入して1.79となります.
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10.11257807の小数第3位を四捨五入して10.11となります.
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